先の記事に引き続き、朝鮮の旅の思い出を引き続き綴っていこう。
この旅行で一番楽しかったと言える思い出は、最後の晩のカラオケである。
チョソン旅行の主催者は当初よりカラオケ大会を計画しており、ツアー参加者の中より参加者を募っていた。
しかし、ガイド氏より伝えられる一夜で一人あたり150人民元(当時約3000円)という金額に、「高・・・てか俺あんまり朝鮮音楽知らないし・・・」と引け腰の参加者が多かった。しかし、ガイド氏を巻き込んだ決死のオルグ活動により最終的に8人の同志が結集し、北朝鮮最後の夜をカラオケで過ごすこととなった。
筆者も、途中までは少し引け腰ではあったが、この夜を逃せば未来永劫朝鮮の地を踏みカラオケすることが叶わぬものとなってしまうかもしれないと判断したが、これが後に完全成功という驚嘆すべき成果を成し遂げることとなった。
爆買いの波はピョンヤンまで来ているのか!
夕飯を終えてガイド氏とともに再集合した我々は、まず、我々の宿泊する特級ホテル・高麗(コリョ)ホテルの地下にあるカラオケ店の門戸を叩く。
バブル時代の銀座のクラブ(当然行ったことも見たこともバブル時代に生まれてすらも無いが)を思わせるような、バー付きのカラオケ店がそこにあった。そしてそこにいたのは中国人ファミリーの先客。中文歌曲を楽しげに歌っている。
そこでまたブチ切れですよ。お前らな、ピョンヤン来て普段歌ってる中文歌曲歌ってんじゃねーよと。セブンスターやるからその席空けろと。「爆買いの波はピョンヤンまで来ているのか!」と同行者の1人が興奮気味に語る。
ガイド氏には、交代で歌う事もできるが、どうするかと尋ねられる。答えはNOだ。
限界オタクは限界オタクで盛り上がりたいし、逆に中国人ファミリーの楽しい一夜を限界オタクが阻害することは世人を驚愕させる激甚な人権蹂躙となりかねない。
そこで、ガイド氏に他のカラオケ店はないかと尋ねたところ、別のホテルに空きのカラオケ店があると言う。もちろん行く。この道しかない。
そして真っ暗な平壌の街に出て、ガイド氏が呼んだタクシーに多人数で乗り込む。
タクシー運賃は5ドル。この国には不倶戴天の敵ヤンキー米帝の貨幣が流通している。複雑な両替を経て人民元で支払ったが、お釣りがやはり米ドル。事実上鎖国状態にもかかわらずグローバルな国だ…。
日本人観光客にはちょっとレアな解放山ホテルへ
そして到着したホテルが2つ星ホテルの解放山(ヘバンサン)ホテル。高麗ホテルや謎の5階が話題の羊角島ホテルよりはグレードが下がるが、長期滞在者が宿泊費を節約するために泊まる、人気のホテルのようだ。

実際に行った時はなんていうホテルか正直わからず、薄暗いこの写真をもとに頑張って明るくして、かろうじて読めたhaebangsanで検索して特定した。
◆ Haebangsan Hotel North Korea (海外サイト)
金日成広場からほど近い場所にあったらしい。
「異国の地で、どこに行くかわからないタクシーに乗る」という面を切り出すと、激ヤバ体験だったと言える。
2級ホテルとはいえ漂亮なカラオケルーム

そしてガイド氏の領導のもと到達したヘバンサンのカラオケルームはこちら。
コリョホテルのカラオケルームとは違い、どちらかと言うとレストラン風の部屋だった。
ビールが人数分と、おつまみのタラの練り物(よくわからないけどめっちゃうまかった)が出された。
我らはあなた(チョソンの歌)しか知らない

朝鮮・中国のカラオケシステムが入っているらしい。ガイド氏は「日本の歌も入ってますが、あまり多くないですよ」と
申し訳無さそうに語っていたが、我々は「日本の歌なんて日本のカラオケで歌えば良いんです」と答え、一発目に「パンガプスムニダ」を予約。
ハングルに堪能なメンバーがいないためガイド氏に「この曲はありますか?」と尋ねつつ
「キムチカクテキの歌」「我が国が一番ね」「金日成大元帥万々歳」「我らの金正日同志」「攻撃戦だ」「突破せよ最先端を」「タンスメ」
と次々朝鮮音楽を入れていく。ガイド氏も「こんなに朝鮮の歌を歌う日本人は初めてですよ・・・(ドン引き)」と言いつつも、ちょいちょい一緒に歌ってくれたりしてくれた。
通信カラオケではないこともあるのか、「我々はあなたしか知らない」などの新しい曲は収録されていなかったようだ。余談ながら、気になったのは歌本に収録されている曲の中に黒いマジックで塗りつぶされているものがあったことだ。恐らく大人の事情で、不幸にも黒塗りにされてしまったであろう曲は一体何だったのか…写真にも撮ってこなかったことが悔やまれる。
歌がうますぎてまるでモランボン楽団なカラオケのお姉さん
カラオケのお姉さんクッソ美人だったよね。キムチカクテキの歌を一緒に歌ってもらった時に恋しそうになった(?) pic.twitter.com/2lo5vWuMnr
— ふどあ (@fd_a_) 2016年7月3日
また、このカラオケには「カラオケ嬢」と呼ばれるお姉さんが1人ついていて、一緒に歌ってくれたり盛り上げてくれたりする。
ガイド氏曰くカラオケ嬢は最低でも音大は出てないと務まらない仕事らしく、歌がクッソ上手い。
日々Youtubeなどで聴いていた、朝鮮音楽生粋の発声とビブラートを完全に習得しており、生でしかも至近距離でこの歌声が聴けたことに興奮を禁じ得なかった。
信じられないほど盛り上がっていた時間も終わりに近づく頃、我々は最後に歌う3曲を決めていた。
「金日成将軍の歌」
「金正日将軍の歌」
「愛国歌」
これら3曲はガイド氏、カラオケ嬢のお姉さんも交えてみんなで声を揃え歌った。終わるとガイド氏は「(この3曲で〆るのは)まるで行事に参加しているようだった」とコメントした。
会計を済ませて店を去る間際、カラオケ嬢のお姉さんは記念撮影に応じてくれたが、撮った後に写真写りを確認して「これはあまり可愛くないね」と再撮影を要求するなど、自撮り大好きな東アジアの民の片鱗を覗かせていた。
会計を済ませ、「今度はもっと朝鮮語上手くなってまた歌いに来ます。」とカラオケのお姉さんに告げてヘバンサンホテルを後にした。
「ワールドミュージック最後のフロンティア」(巻頭帯より)